2026.04.17

「お母さん、いたいの?」――その一言で気づいた介護うつと“頼る”という選択

「お母さん、いたいの?」――その一言で気づいた介護うつと“頼る”という選択

「お母さん、いたいの?」 泣いている私を見て、子どもがそう静かに聞きました。 すぐには言葉が出ず、ただ頷くことしかできませんでした。 由美さん(46歳)は夫と共働き。2人の子どもも少しずつ手が離れ、これから少し余裕ができるかもしれない――そう思い始めた頃でした。 しかし、別居している義母が転倒し、骨折。元気だった義母の変化に、義父だけでは対応できず、急遽在宅での介護が始まったのです。

 

◇『自分がやるしかない』という空気

退院後、義母の生活は大きく変わりました。

通院、食事、身の回りのこと。

その多くを担うのは、自然と由美さんになっていきました。

夫に相談しても、

「できるほうがやればいいんじゃない?」

「母さんもそのうち良くなるでしょ」

と、どこか他人事のような返事。

 

そのやり取りを、子どもはそばで聞いていました。

少し不思議そうな顔をしながらも、何も言わず、ただ由美さんの様子を気にするようにみていました。

 

◇静かに積み重なっていった疲れ

朝は家のことと子どもの支度、その後仕事へ。

帰りに義母の家へ寄り、介護。

帰宅後はまた家事。

気がつけば、休む時間はほとんどありませんでした。

『今だけだから』

そう思いながらも、心と体は確実に疲れていきます。

 

◇気づかないうちに限界だった

数日後。

義母のことで夫と少し言い合いになったあと、張りつめていたものが切れたように、涙があふれてきました。

リビングで座り込んだまま、声を押し殺して泣いていると、2人の子どもがそっと近づいてきました。

しばらく黙って背中をさすったあと、小さな声で、ゆっくりと言いました。

「お母さん…いたいの?」

そして、少し考えるようにして続けます。

 

「ねぇ……お父さんは、なにもしないの?」

「おばあちゃんって、お父さんのお母さんだよね」

 

まっすぐな言葉でした。

責めているわけではなく、ただ不思議だというように。

 

◇初めて気づいた《自分の状態》

その言葉を聞いたとき、胸の奥に溜まっていたものが一気にあふれました。

体が痛いわけではない。

でも、確かに《どこか》が苦しかった。

「しんどいの?」と聞かれ、由美さんは何度も頷くことしかできませんでした。

 

◇少しだけ変わり始めた家の空気

その日の夜、いつもより静かな食卓で、夫がぽつりと口を開きました。

「ちょっと調べてみたんだけど…こういうの、使えるみたいなんだ」

スマートフォンの画面を見せながら、介護サービスや相談先について話します。

 

「……相談、してみないか?」

 

どこかぎこちない言い方でしたが、それは初めて、夫が自らの意思で【介護のことに向き合おうとしている】瞬間でもありました。

由美さんは肩の力が少しだけ抜けるのを感じました。

すると下の子が、母に向かって小さな声で言いました。

「ねぇお母さん、いってみようよ!」

その一言に、由美さんは驚きと安堵が入り混じった気持ちで、少しだけ涙を拭いました。

 

◇相談という選択

翌日、夫の調べた地域包括支援センターに連絡。

話を聞いてもらう中で、涙が止まらなくなりました。

「こんなことで相談していいと思わなかった」

担当者は由美さんの話を言葉を遮らずに最後まで聞き、そっと表情をゆるめ

「来てくださってありがとうございます。今こうしてお話しいただけて、本当によかったです」

その一言が、張りつめていた空気を少しだけほどいた。

 

◇訪問介護の導入

ケアマネジャーとつながり、訪問介護を利用することに。

最初は、

・自分でやるべきではないかという思い

・家族の中での役割への迷い

がありました。

それでも、

「由美さんが全部抱えなくていいんですよ」

と言われ、少しずつ任せることを選び始めます。

 

◇少しずつ戻ってきたもの

訪問介護が入るようになり、【自分が行かなくてもいい時間】が生まれました。

ある日の夕方。

「お母さん、今日ね――」

子どもが話しかけてきたとき、由美さんは手を止めて、しっかりと耳を傾けました。

子どもは嬉しそうに話をしながら、時々顔を見てにっこり笑います。

由美さんもつられて笑顔になり、二人で小さく笑い合った瞬間、【少しずつ日常が戻ってきた】ことを実感しました。

 

 

◇ひとりで背負わなくていい

すべてが急に解決したわけではありません。

家族の形も、すぐに変わるものではありません。

それでも、

「頼っていい場所がある」

「一緒に考えてくれる人がいる」

そう思えたことで、心の重さは少しずつ軽くなっていきました。

 

◆まとめ

介護は、家族の問題でありながら、負担がひとりに偏ってしまうことがあります。

そしてその違和感は、子どもにも静かに伝わっていきます。

「お母さん、いたいの?」

「お父さんは、なにもしないの?」

今回の事例ではその言葉がきっかけで、由美さんはようやく相談に一歩踏み出せました。

訪問介護は、“できなくなってから”ではなく、“壊れてしまう前”に使うものです。

どうか、あなた自身と、あなたの大切な人のために。

頼るという選択を、忘れないでください。

そして、一緒に笑う時間も、小さな安心の積み重ねになるのです。

 

 

最後までお読みいただきありがとうございました。

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執筆・監修者

コラムニスト

北田さん

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